自分はカルナ・メドサロンという会員制総合健康サロンの院長をしております。人間ドックや一般診療を行っておりますが、今回は偶然書店で手に取ったこの本を選びました。読むにあたっては、自分の行っている人間ドックの改善点があればという謙虚な気持ちと、このタイトルで何が言いたいのだという不遜な気持ちも無かったとは言えません。
著者は東京・銀座のクリニックで多くの糖尿病患者さんを診ている糖尿病専門医の方です。糖尿病は全身の血管にダメージを与え、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める事が良く知られていますが、一部のがんや、認知症のリスクも高める事が、近年明らかになってきました。つまり糖尿病の患者さんを多く診ている医師は、他の命に関わる疾患に接する機会も多いという事になります。そういった経緯の中で、広く一般に安易に実施されている人間ドックに疑問を感じ、この本を書かれたようです。読み進めると、内容はいたって正論であり、コンセプトも明確です。「命を奪う病気をできるだけ早く見つけ、早期治療につなげる。」、「命を奪う病気にならないように、原因となる病気をしっかりとコントロールする。」など、自分の考えと共通する部分が多くありました。
現在、日本人の死因の第一位はがん、二位は心疾患、三位は肺炎、四位は脳血管疾患です。三位の肺炎を除くと、全て生活習慣病です。全ての病気から逃れる事は困難ですが、これらの疾患にできるだけ早く対応したくて、人間ドックを受ける方がほとんどだと思います。その為の賢い人間ドックの受け方として、本書は良い指針を示しています。
まずは死因の第一位であるがんについてですが、男性では肺がん、胃がん、大腸がん、女性では大腸がん、肺がん、胃がんの順に亡くなる方が多くなっています。特に肺がんは急激に増加傾向にあります。
近年、喫煙率は低くなっていますが、肺がんの中には喫煙の影響が大きいがんと、喫煙とあまり関係がないがんがある事が分かっています。増えているのは後者ですので、タバコを吸わないからといって、肺がん検診を受けなくて良いという事にはなりません。一般には胸部レントゲン検査を受けている方が多いと思いますが、著者は胸部CT検査を強く勧めています。実際レントゲン検査で早期の肺がんを見つける事は困難です。また胃がんと大腸がんについては、バリウム検査や便潜血の検査を受けておられる方が多いでしょう。
ただ、これらの検査では早期の胃がんや大腸がんを見つける事は困難です。PET-CT検査をオプションで受けたから安心という方も、胃がんや大腸がんについては、この検査の有用性が極めて低い事を認識する必要があります。ある程度のご年齢になれば、胃カメラ検査や、大腸内視鏡検査を、信頼できる施設で定期的に受ける事が必要になります。
死因の第二位である心疾患や、第四位の脳血管疾患を防ぐには、高血圧症、高脂血症、糖尿病等の危険因子をしっかりと把握し、コントロールする必要があります。リスクが高い方は、脳MRI/MRA検査、造影冠動脈CT検査を受ける事によって、早めに対処する事が可能となります。第三位の肺炎については、六十五歳を超えたら肺炎球菌ワクチンを接種する事により、リスクを減らす事が可能です。今、これを読んでおられる方も、定期的に健康診断や人間ドックを受けておられる事が多いと思います。ただ、その人間ドックが正しい内容なのか、その結果を生かして大きな病気を予防できているのかは、甚だ疑問です。間違っている9割の方ではなく、正しい1割に入っていると自負するカルナ・メドサロンの人間ドックを、一度体験して頂ければと存じます。