今回は、1994年に刊行されたエボラウイルスに関するノンフィクション、「ホット・ゾーン」を取り上げさせて頂きました。20年前に発表された本ですが、最近のエボラウイルス疾患の拡大に伴い、緊急復刊されました。ウイルスに対する知識を得ながら、小説のように一気に読み進める事ができるので、エボラとは何かを知るための良書と言ってよいでしょう。
2013年の十二月頃に西アフリカのギニアから始まったアウトブレイクは、瞬く間に近隣諸国にも拡がり、2014年11月現在で感染者は15,000人以上、死者は5,000人以上となっています。アメリカ疾病対策センター(CDC)は、現在の状態が続くと2015年1月末までに、感染者は55~140万人に及ぶと想定しています。ちなみにアウトブレイク(outbreak)とは、ある限定された領域(国、村、病院など)の中で、一定期間に予想以上の頻度で疾病が発生する事です。1995年にダスティン・ホフマン主演で公開された映画「アウトブレイク」で知名度が上がった言葉ですね。映画の中では架空のモターバ・ウイルスが設定されていましたが、エボラウイルスを意識している事は間違いありません。
本作では、1967年から1993年にかけて起きたエボラウイルスにまつわる事件が、緻密な取材によって鮮明に描かれています。ノンフィクション作品でありながら、文学作品としても成立しているのが、本作の大きな特徴です。ある男性がケニアで謎の疾患にかかり、あらゆる体腔から出血を生じ死亡します。その男性を診察し、血液や吐瀉物を浴びていた医師にも同様の症状が現れ、徐々に原因が明らかになっていきます。自分は大学生の頃、ケニアのビクトリア湖近くの村に3週間程滞在していた事があるのですが、その時の街の雰囲気や空気感が文章からひしひしと伝わってきます。1989年にはアメリカの首都近郊の都市、バージニア州レストンで、輸入された猿がエボラウイルスに感染している事が判明します。猿の中で感染が拡がり、陸軍とCDCがウイルス制圧に挑みますが、現場に臨む各人にもスポットを当て、彼らの不安や葛藤を通じて、ウイルスの恐ろしさを更に知る事になるのです。
現在のアウトブレイクに際して、著者の追記の一部を抜粋しておきます。
「いま、エボラを克服するためには、この人類の敵と渉り合える潤沢な資金と資源を持つ先進諸国に率いられた、地球規模の強力な努力が不可欠だ。これだけは肝に銘じておこう。エボラは全人類の敵なのである。もしこのウイルスが人間のあいだを渡り歩きながら変身をとげ、恐ろしい突然変異を繰り返したら、それこそバングラデシュからビバリー・ヒルズまで、地球のいかなる場所にも移動し得る能力を身につけることだろう。」
エボラウイルスの脅威は現在も続いており、現地では多くの医療従事者が、勇敢にも自分の役目を果たそうとしています。そして、患者やその家族は不安や恐怖と戦っています。本書を読んだ後には、決して対岸の火事とは思えなくなっているでしょう。