近年、ダイエット業界やフィットネス業界が盛り上がっています。巷にはダイエットや筋肉トレーニングの情報が溢れかえり、結局自分にとっての正解が見つかっていない方は多くおられると思います。正解が見つからないからこそ、様々な情報に惑わされてしまうという悪循環に陥り、健康な状態を取り戻せずに日々を過ごしてしまっている方々です。メタボリック症候群から脱却したい、認知症のリスクを減らしたいなど、健康に対する人々の思いは多岐に亘るため、唯一の答えを導きだすのは非常に難しいといえるでしょう。この著者の前著は「脳を鍛えるには運動しかない!」というベストセラーであり、その内容は多くの論文を基にしたアカデミックな内容であったのを記憶しております。運動しかないと言い切ってしまい、その根拠を緻密に積み上げる手法は流石です。
さて、本作も「GO WILD」という非常に目を引くタイトルです。野生に戻れ、本来人間が持っている体を取り戻せという、その名の通りワイルドな内容だけを思い浮かべますが、実際は人間が進化の過程で得たもの、失ったものを詳細に検討し、現代社会の中で我々がすべき事の指針が知性を以て語られています。
現生人類であるホモ・サピエンスは、20万年ほど前にバージョン1.0が出現し、それ以降の顕著なアップグレードは起きていません。元々、人類は狩猟者であり、持久力を有して走る事で、狩猟を成功に導き、食糧を得ていました。尚且つ、人類は走る以外にも、アーミーナイフのように、あらゆる動作や運動に適した多様性を持った万能選手であり、それによって地球の隅から隅まで居住するという偉業を果たしたのです。 それが今ではどうでしょう。多くの人類が多様な疾患に悩まされています。過剰な人口、過度に産業化した食物連鎖、動かない生活が文明病の蔓延をもたらしたとされていますが、これらは1万年前に人類が初めて穀物を栽培した時に始まったと考えられています。今日では、米、小麦、とうもろこし、ジャガイモの四つで、人類が摂取する栄養のおよそ75%を占めており、これこそが、文明病の元凶だと著者は指摘します。日本においても近年、糖質制限ダイエットはブームとなっていますが、最新の研究結果も低炭水化物食の利点を後押ししています。
これに加えて多様な食物の摂取がより重要だとも著者は述べています。ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスに比べて何が欠けていたかと言うと、それは魚を食べる習慣だと考えられています。この栄養源の利用が生む多様性は、ホモ・サピエンスに大きな利点をもたらした事でしょう。この多様性は運動に関してもポイントであり、本書ではトレイルランニングを勧めています。山野を走る際は、地形や傾斜等の状況は刻々と変化し、脳や身体はそれに応じて、多くの情報処理を行う必要が生じます。その多様性こそが現代人にとって必要なものなのです。
今、始めるべき健康法は、低炭水化物食を基本とし、多様な食物を摂取し、多様な運動を行う事だといえるでしょう。コアラはユーカリに棲み、ユーカリの葉を食べ、その木から離れる必要がありません。昼も夜も枝の上に座っているだけです。しかし、進化の歴史の初期には、食性や活動がもっと多様だった痕跡が頭の中に残っています。コアラの脳は非常に小さく、頭骨の中でスカスカな状態なのです。これは食性や活動が単調になるにつれて、脳が縮んだと考えられています。皆さんもコアラになる事なく、多様性を持った生活を始めてみませんか?